昭和21年上市町生まれ。国税庁に入りました。

「実業の富山」

 実業の富山が創刊された昭和21年に上市町で生まれ、富山中部高校、富山大学を卒業した後国税庁に入りました。公務員を選んだのも伯父の石田重三、浦田平地郎、石田幸昭、従兄の市丸正年が公務員であったことが影響している。その後、経済企画庁、公正取引委員会、東京地方裁判所、大蔵省造幣局、石油公団に出向したが、公務員生活30年のうち20年を国税関係に従事してきました。

 勤務地も東京を始め秋田県、香川県、熊本県、愛知県、宮城県に及びました。転勤は東京と地方を行ったり来たりしたうえ香川と愛知は2度も勤務したので、妻は腰が痛くなったのは引越のせいだという。2年ごとに変わっておりましたので、宇奈月町の四月朔日公認会計士は転勤の通知を出すごとにびっくりしていました。熊本、名古屋、仙台に富山県人会があり佐藤工業の方が中心になって活動されておられましたが、富山県民の県人会好きには改めて再認識させられました。

 地方はそれぞれ特色がありおもしろい。雑煮の作り方、ウナギの食べ方、葬式のやり方、献盃・お流れ頂戴等酒の飲み方等々それぞれ異なっている。似ているところもある。香川県と愛知県は、日頃質素にしているが結婚式には派手に使うところが富山県と似ているのに驚かされる。方言を覚えようとしたが英会話がうまくならないのと同じで年をとってからは難しい。富山の人と話すと自然に富山弁が出るのに。

 転勤族の楽しみは、その地方の食べ物はもちろんのこと、休みを利用して山、岬、島、温泉を回ることである。地方には仕事を通じて知り合った友人がたくさんいるが、住まいの近所には友人が少ない。

 サラリーマン生活で感ずることは、仕事が人を育てることである。厳しい局面を多く経験するとそれが血となり肉となり、次の成長の糧となった。今思えば、厳しい上司ほどいろいろ教えられることが多く感謝しなければならない思いがする。しかられた後も残らないのは、育てる気持ちがあってアフターケアが十分であったからであろう。

 原稿を頼まれても書けることといったら仕事を通じて感じたことぐらいである。幸い国税の職場やいろいろな職場を通して世の中の断面を垣間見ることが出来た。最近起こった事故等を含めて感じたことを書き綴ってみたい。

 第一に、事故が起きてから膨大なエネルギーを使うよりも、事故が起きないようにちょっとした注意、未然防止が大切なこと。ミスは誰だって犯しやすいので、起きないように管理者は絶えず注意喚起しておかなければならないし、時には現場に立ち入って実態を見なければならない。

 第二に、判断ミスを犯す原因を考えなければならない。順調にいっているときは問題ないが、環境の変化により世の中が思いどおりにいかなくなったとき、又は、突発事故が起きたときである。判断に当たっては反対になる可能性、相手がどう出るかも考えて判断しなければならない。その場合先を見通す洞察力が必要である。経験則でどこで不注意によるミスが発生しやすいかある程度読めるようになる。連絡不十分、たぶん誰かがやってくれているだろうと思う独り合点、もう一度見直さないことによる確認漏れ、上司の部下任せ等々。

 第三に、人間は悪いことを隠そうとするが、隠した結果こじれて問題を大きくする傾向がある。ミスを隠したがるのをいかに防ぎ、トップに素早く情報をあげさせるかである。それには隠していてもいつかはバレルことを認識させておき、隠した場合には罪一等重くなることを前もって言っておかなければならない。同時に成績至上主義に走らず、ミスを犯した場合に自白しやすい雰囲気も日頃から作っておかなければならないし、悪いことは悪いとはっきり批判する勢力も社内には必要である。危機管理は、突発事故の対応に限らず、日頃の管理も重要である。

 第四に、小さなミスは絶えず起こるものであることを認識し、小さな失敗にこだわるあまり大損をしないことである。欲張ると損をすることである。うまい話には裏があると思って簡単に飛びつかないことである。ただ酒、痴漢、ただほど高くつくものはない。

 第五に、進行管理が重要である。部下に「報連相」を徹底するように言ってあっても必ずしも実行されるとは限らない。自分から進んで部下の仕事の進捗状況を把握することも必要である。部下が悩んでいることも考えられるので方針を決めてやることも必要である。

 第六に、判断に迷ったら苦しい方につくことである。苦しみ紛れに易きに流れると失敗することが多い。心配して慎重に事を進めていると案外とうまくいくことが多い。その場しのぎのいい加減な処理をせずに、真正面でぶつかり大きく背中に背負い込むことが必要である。

 以上のことを座右の銘にして、仕事を進めてきたが思うようにいかないことも多かった。平成十一年に関東国税不服審判所長を最後に退職し、現在、東京法人会連合会の専務理事として税知識の普及、納税思想の向上、会員企業に対するサービスの提供、社会貢献事業等に従事しているが、毎日毎日反省しながら仕事をしている。