税務判決に思う

税の判決

 大学院で税法を教えていると税の判決に接する機会が多い。最近の判決で印象に残るのは長崎年金訴訟である。長崎地裁で納税者勝訴、高裁で国側勝訴、最高裁で国側敗訴となったのはご存知のとおりである。税務判決を見ていると高裁は比較的保守的なのか国側が勝つ場合が多い。最高裁はさすが常識的な判断を下す(まれにおかしいものもあるが)。昔、裁判官から「判決を下すには、まず常識的に考えて正しいと思う結論を出し、次いでそれを法律的に理屈づける。」という話を聞いたことがある。

 長崎年金訴訟の最高裁判決に対して賛成する人が多いが、批判的意見も出されている。少数説が出ると、税理士試験科目免除の大学院生に修士論文を書かせるのに指導しやすく有り難い。言論の自由万歳である。

 当然のことながら裁判所は国税庁の通達にとらわれなく判決を出す。税に詳しい裁判官ともなると通達がおかしいという判決を出すが、昔は、税に詳しくない裁判官は、国の主張していることに間違いがないだろうと思ってか、国側が勝訴する割合が高かった。ところが、最近では無理な課税が増えたのか、税に詳しい裁判官が増えたのか、国の勝訴率も下がってきている。

 税理士が更正処分等に対して争うには、当然のことながら勝ち目のある争い方をしなければならない。国税庁の通達にもおかしいところがあるので裁判官に理解してもらうことも必要であろう。

 税務の判決はひとつの争点につき勝ち負けがはっきりしているのも一つの特徴である。原告被告の主張の間を取って和解をすることはない。例えば、貸倒損失にしても金額の一部だけ認められることはない。